2012年3月3日土曜日

第一幕 第一話

-Who am I ? Where from I ?-










――ここはどこだろう。
亜麻色の髪を左肩で緩く結った少女は、自分の瞳と同じ色をした空を見上げてぼんやりと思った。
何も思い出せない。自分が誰で、どこから来たのかも。
服装も、場所も、自分の外見も。何一つとして見覚えがない。なぜだろう。
感じるのは鈍い頭痛。空虚な心の中を吹き抜ける、皮肉なほどに爽やかな風。

「――おや?」

風が巻き上がり、緑が視界と鼻孔に舞う中、唐突に背後から声がかかった。
少女が振り返った目線の先には、性別の区別のつきにくい妖艶な人物が立っていた。
夜明け前の空のように蒼い瞳、白い肌と銀の長髪。変わった服装をしているが、どこか少女の着ている服装と雰囲気が似ていた。
その人物はなびく風を少し片手で抑え、先刻まで少女の見上げていた空を見上げていた。
「こんなところに小鳥が一羽とは珍しいね?」
声からして男性。しかし少女はそれを理解すると同時に、抗いようのない恐怖を感じた。

――この人、怖い。

銀髪の青年は少女を見据える。そしてにこりと微笑む。
しかしその笑顔で刹那、少女の背中には悪寒に似た寒気が走った。この人、目が笑ってない。そう気付きつつ冷や汗が流れ、足がすくむ。この人の中には絶大な力がある。自分など到底敵わない大きな力が。
それを感じ取り、同時に笑いを含まない冷たい目に宿る冷酷さに怯えと狼狽を隠しきれなかった。
怖い。怖い。逃げなきゃ。殺される。
少女は必死に周囲を視線だけで探る。辺りは森。ただし背後は崖。正面にはまるで〝死神〟ともとれる青年と、彼に従えられているらしい銀の竜だけだ。

「そんなに怯えなくてもいいんじゃないかい?」
青年が近づく。頬に手を触れられ、必死に俯いていたその顔はあっけなく上を向いた。
「へぇ。君には僕の力がわかるんだねぇ?」
冷ややかな視線。それと同じように、青年の体温も低く冷たい手だった。
滑らかな手は現来であれば、心地よく感じるものだろう。しかし少女にはその手は返り血を大量に浴びた恐ろしい手なのだと直感した。

「君の名前は?」
「私の・・・・・・名前は・・・・・・」
そうだ。私の、ここの私の名前は――



「ウェルト・・・・・・」






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